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意外と知らない!? 医療に関する法律

2024.01.12

2023年11月5日(日)、ホームヘルスケアプランナー検定、ヘルスケアプランナー検定取得者を対象にした「第3回オンラインセミナー 意外と知らない!? 医療に関する法律」(主催/一般社団法人ヘルスケアプランナー検定協会)を開催しました。
当日は、講師としてヘルスケアプランナー検定教本の執筆者で、スピカ総合法務事務所にて、行政書士をされており、主に医療法・薬機法に係る許認可業務を中心に取り扱っていらっしゃいます竹内千佳先生をお招きし、「医療に関する法律」をテーマに約1時間の講演が行われました。なお、当日は、有資格者や教本の執筆に協力していただいた先生方など30名が参加しました。

 

最初に、少々難しい医療関連法規の話

私はスピカ総合法律事務所に所属する行政書士として、主に医療法人の設立や許認可業務を中心とした業務を行っています。本日の講演では、学術的な話が中心になると伝わりにくくなってしまうので、できるだけ皆さんの身近な例を取り上げながら具体的に話していきたいと考えています。
ただ、ベースとなる法令の話は避けて通れないので、最初に、少々難しい法規の話をさせていただきます。医療関連の法規は、大きく分けて「医療に関する法律」「保険・福祉に関する法律」「医療従事者等の資格に関する法律」「その他のガイドライン」の4カテゴリーに分類できます。以下、その内容を見ていきましょう。

 

■医療に関する法律
このカテゴリーには「医療法」と「薬機法」が含まれます。
「医療法」は医療機関や医療施設に関連する法規。「薬機法」は正式名称を「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」といい、薬を扱う場合や医療機器を扱う場合の規則となります。

 

■保険・福祉に関する法律
このカテゴリーには「介護保険法」「社会福祉法」「児童福祉法」が含まれます。
これは医療保険などの保険関係、社会福祉や児童福祉といった福祉関係の法律です。例えば医療法人が介護施設を併設するといった場合には、これらの法律が関わってきます。

 

■医療従事者等の資格に関する法律
このカテゴリーは医療従事者に関する規制であり、いわゆる業法に近いかたちで「医師法」「看護師法」「薬剤師法」に分けられています。
一般の消費者を直接規制するものではありませんが、これらの法律によって医師や看護師、薬剤師に厳しい規制をかけることで、結果的に私たちの生命や健康を守ることにつながっています。

 

■その他のガイドライン
このカテゴリーは、「医療公告ガイドライン」「医療機関ホームページガイドライン」など、厚生労働省をはじめとするその時代の行政庁が出している指導指針(ガイドライン)が含まれます。法律ではないので法的拘束力はありませんが、行政庁が出した“見解”なので、実務上ではガイドラインに則った運用がなされています。
私たちの健康や安全を守るための規制について、法律だけでは全て決めることができないので、抽象的な法律をより詳しく具体的に規制するためのものがガイドラインとなります。

 

「風邪をひいたとき」の行動をもとに関連する法律を見てみよう

ここから先は、皆さんが「風邪をひいたとき」にとる行動を例にとってみましょう。
風邪をひいたときに日本人の多くは、「医療機関を受診する」または「薬局で市販薬を購入する」の2つの選択肢から選んで行動します。この2つの行動パターンを基点として、薬に関する法律を掘り下げてみましょう。

 

《ケーススタディ1》風邪をひいたとき→医療機関を受診する

私たちが医療機関を受診する際、医師や医療機関と、患者である私たちの間に、「診療行為」という法律関係が発生します。
ここで関連する法規は「医師法」第17条にある「医師でなければ、医業をなしてはならない」が該当します。この規定に違反した者に対する罰則規定が同第31条で「三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処す」と定められており、かなり重い刑罰を科すことで、専門的知識を持った医師でなければ私たちの生命や身体に関する業を行ってはいけないと規定し、私たちの健康や安全を守っているのです。
ところが医師法においては「医業」が具体的にどういうものかという説明はなされていません。そこで、厚生労働省の行政解釈、つまりガイドラインとして「医業(医行為)」の内容を次のように定めています。
「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼす恐れのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うことである」
今の日本において、医師ではない人が医業を行うケースはほとんどありえません。
しかし、例えば一般的に「美容医療」と呼ばれている以下のような行為が「医行為」にあたるのかどうかが、たびたび争点になっています。

 

(1)用いる機械が医療用であるか否かは問わず、レーザー光線又はその他の強力なエネルギーを有する光線を毛根に照射し、毛乳頭、皮質開口部などを破壊する行為

(2)針先に色素をつけながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為

(3)酸等の化学薬品を皮膚に塗布して、しわ、しみ等に対して表皮剥離を行う行為

 

これらのうち(1)(3)については厚労省の行政指導指針において「医行為」として定義しています。
一方、(2)のタトゥーや刺青については、従来は「医行為にあたるので医師にしかできない」と行政庁が判断していたのですが、最近、司法で争われ、2020年9月の最高裁において「医行為ではない」という判断が下されました。すなわち医師でなくても、タトゥーや刺青を入れることができるということで、現在はこの判断に基づいた運用がなされています。
このように、法律は全てにおいて細かく規制することはできないため、法律に基づいた行政の解釈も、時代や文化的背景によって変わることがあります。特に先端医療や美容医療では、日々新しい手法が出てくるので、変化の速度は早い分野です。これからも、こうした解釈の変化は数多く出てくるのではないかと考えます。

 

医師が遵守しなければならない「応召義務」とは?

続いて、医師法におけるもう1つの重要な規定である「応召義務」について説明させていただきます。
医師法の第19条では「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と定めています。これは罰則規定がありませんが、医師法上の行政処分として、医師免許の剥奪などは可能だとされています。
ここでいう「正当な事由」とは、行政庁の解釈としては「社会通念上健全と認められる道徳的な判断」「事実上診療が不可能な場合に限られる」などが挙げられます。では「正当な事由がない」と判断されるのはどういうケースでしょうか。行政庁の解釈として以下の事例が挙げられています。

 

(1)医療報酬の不払い

(2)診療時間外における急患の診療

(3)標榜診療科名以外の診療を求められた場合でも、患者が診療を求めるとき

 

このうち(1)については、例えば外国人観光客が救急で運ばれてきて、日本の保険の枠外なため、未払いを恐れて診療を断るケースが許されるかどうかという議論があります。基本的には応召義務があるので、診療をしないということは許されません。
(2)については、例えば「診察時間を過ぎているから診療できません」という断り方はできないということです。
(3)では、例えば内科の病院に耳鼻科の患者さんが来たときに、患者さんが求めるのであれば診療をしなければいけません。僻地医療では比較的よくあるケースです。
先述のようにこれら応召義務に応じなくても刑事罰には問われませんが、民法上の不法行為責任を問われ、損害賠償請求が問われるケースもあります。
そこで必要なのが「過失の認定」であり、その際に応召義務違反が考慮される場合も、実際の裁判例としてあります。

 

 

「医療機関」「医師」「患者」「国」に関わる法律のまとめ

ではここで「医療機関」「医師(勤務医)」「患者」「国」のそれぞれの関係性において関連する法律を整理してみましょう。
まず「医療機関」と「医師(勤務医)」の間には労働契約があり、「医師」は「医療機関」に対して労務提供の義務が生じています。
一方、「患者」と「医療機関」の間には診療契約が結ばれます。医療機関はそれに基づいた診療義務が生じます。実際に診療するのは「医師」ですので、「医師」と「患者」の間には、医療機関の診療義務を具体的に履行する診療行為が発生します。

 

これらの監督をするのが「国」であり、具体的には厚労省と、監督庁である保健所が具体的な監督権を持っています。
「国」は「医師」に対して医師法上の応召義務を監督します。また「国」は「医療機関」に対しては、医療法上の体制整備義務と、労働関連法令の順守義務を監督します。

 

 

《ケーススタディ2》風邪をひいたとき→薬局で市販薬を購入する

薬を入手する方法は大きく2つあります。
処方箋に基づいて調剤してもらう調剤行為と、薬局で市販薬を販売する販売行為に基づいて入手する方法です。また薬機法では「医薬品」は3つに分類されています。

 

(1)医療機関の診察後、窓口で受領(院内処方)

(2)医療機関の診察後、処方箋により薬局で受領(調剤薬局)

(3)薬局やドラッグストアにて市販薬(OTC医薬品)を購入

 

端的に言うと、(1)(2)が医師の指示や処方箋がなければ授与できない「医療用医薬品」、(3)が一般的な「市販薬」となります。
薬機法の第49条では(2)のケースに対して、処方箋がなければ調剤および販売、授与はしてもらえないことを規定しています。さらに薬剤師に対しては、どういう医薬品を調剤および販売、授与をしたかを記載して、帳簿に残さなければいけないと規定しています。その帳簿は2年間保存する義務も課せられています。

 

また、(3)の市販薬については、薬機法第4条に基づいて「要指導医薬品」「一般用医薬品」の2種類に分けられます。「要指導医薬品」は、使用者が医師の指示がなくても自分で選択して使用できますが、購入などの際に薬剤師による対面での情報提供や服薬指導が必要となるもの。「一般用医薬品」は薬剤師の対面での関与が不要のものを指します。また、「一般用医薬品」は「要指導医薬品」と比べて使用に伴うリスクは低いですが、その中でも比較的リスクが高い順に「第1類医薬品」「第2類医薬品」「第3類医薬品」に分類されます。

続いて、薬を調剤する薬剤師の規制についてもご説明します。
薬剤師全般の職務や資格などに関して規定した「薬剤師法」では、薬剤師の業務は大きく分けて「調剤」と「服薬指導」の2つがあります。「調剤」に関しては、薬剤師はあくまで医師が出した処方箋に基づいて行うものであり、独自に「こちらの薬のほうがいいですよ」などといって薬を授与することはできません。また「服薬指導」については、医薬品の容器や袋に使い方などについて記載するほか、薬を授与する患者やその家族に対してきちんと説明をし、薬学的知見に基づいた指導を行う義務があると薬剤師法で規定されています。

 

 

ここまで、医療関連の法規を説明してきました。
私たちの生命や健康を守るための法律なので、医師や薬剤師といった専門家だけでなく、一般の消費者でも知っておくといいかもしれません。今回のセミナーをきっかけに、少しでもこれらの法律に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

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