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へるすけあこらむヘルスケアコラム

【医療を知ろう】感染症対策の法制史

2022.10.07

はじめに

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が発生して、早くも3年目に入ってしまいました。20世紀末に流行した新興感染症としては、2002年のSARS、2009年の新型インフルエンザ、2012年のMERSがありますが、その中でもCOVID-19 は各国が度々ロックダウンを行うなど、私たちの生活に大きな影響を与えました。もちろん、感染症の恐ろしさは頭では理解していたはずなのですが、日常がいとも簡単に崩れていく様を身近で感じたことによって、その怖さを実感した人も多かったと思います。

今回は、感染症対策の法制史をまとめます。法令の軌跡を辿ることで、これまで私達がどのように感染症に対応してきたのかを知るきっかけになって頂ければ幸いです。

感染症対策に関する法律

わが国の感染症対策関連法は、大きく3つに分かれています。①感染源対策(水際対策)のための「検疫法」、②感染経路対策(感染者の治療等)のための「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、「感染症法」とする)、③宿主対策(免疫獲得)のための「予防接種法」です。今回は、②感染症法を中心に取り上げます。なお、COVID-19の蔓延防止対策としては、「特措法」(新型インフルエンザ等対策特別措置法)(※[1])、「感染症法」「検疫法」の3法を活用した枠組みを採用しています。

現在の「感染症法」は、1998年それまでの「伝染病予防法」を基に新しい法律として制定されました。「伝染病予防法」は、明治30年(1897年)からおよそ100年にわたり使われてきた感染症対策の基本的な法律です(※[2])。その後、性病予防法(1948年)、らい予防法(1953年)などが制定されました。これらの法律は、科学的根拠が乏しいまま、感染症の蔓延防止を理由に罰則をもって患者を取り締まるものとして使用され、患者およびその家族に対する社会的差別を引き起こしました。こうした反省から、現行の「感染症法」では人権への配慮が明記され、行政機関による強制力を伴う措置を行う場合には、手続保障のほか、その内容を必要最低限にすることが求められています。

※1「特措法」は、2009年の新型インフルエンザの流行を受けて、2012年に制定されたものです。「緊急事態宣言」の発令や、発令時の外出自粛と使用制限、臨時の医療施設の開設のための土地等の利用等について定めています。この「特措法」は、COVID-19の感染症対策として、実質的には初めて使われました。

※2現在の法令では「伝染病」ではなく、「感染症」という言葉に統一されています。厚生労働省は、「細菌、ウィルス等の病原体が人体に入って引き起こされる疾病」を「感染症」としており、そのうち「人から人への感染がある疾病」を「伝染病」としています。

感染症法の主な改正経緯

(1)平成15年改正

2001年9月11日に起きた米国同時多発テロ事件以降、炭疽菌や天然痘などの生物テロ対策への対応の必要性が高まったこと、および2003年SARSの流行などを受け、感染症法は2003年11月に一部が改正されました。

①緊急時における感染症対策の強化

感染症法は、制定時には地方自治体主体で制定され、国の関与は最小限にとどめられていました。しかし、SARSのような新興感染症への対応などから、従来の自治体の責任に加えて、国の積極的関与が求められるようになりました。本改正により、積極的疫学調査の強化、国の指示権限の創設などがされました。

②動物由来感染症に対する対応の強化

新興感染症の多くが動物由来であることから、動物の輸入に係る届出制度の創設や、調査範囲の拡大などが行われました。

③感染症対象疾患及び感染症分類の見直し

生物テロへの対応として、痘そう(天然痘)、SARSが1類感染症に加えられました。

 

(2)平成19年4月改正

バイオテロ対策を強化する目的による一部改正、および結核予防法廃止などが行われました。

①病原体等の管理・取り扱いに関する規定の創設

病原体などについては、適正な管理がされないと人為的な感染症発生の恐れがあることから、これを研究者の自主的な管理に委ねるのではなく、法律をもって規制することとしました。規制の強弱は、病原菌の種類(1~3種)によって異なります。

②感染症対象疾患分類の見直し

1類感染症に南米出血熱、2塁感染症に結核が規定されました。また、SARSが1類から2類に、腸管感染症(コレラ、細菌性赤痢、腸チフス及びパラチフス)が3類に変更されました。

③結核予防法を感染症法へ統合

結核予防法では、入院命令をする際、同居人の存在を前提としていたことから、独居人に対して的確な入院命令措置が取れない事態が生じていました。また、入院命令などを行う際の手続きが法定されておらず、人権上の問題が残っていました。そのため、結核予防法を感染症法へ統合することで、これらの解決を図りました。

 

(3)平成20年5月改正

鳥インフルエンザウィルス(A/H5N1)の流行により、それまでの指定感染症(2類疾病病並み)から2類にし、新たに「新型インフルエンザ等感染症」という分類を創設しました。「新型インフルエンザ」は、既存の感染症対策を超えた対応が必要な場合、現行の1類から5類までの類型では十分な対応が取れないことを想定し、設けられたものです。「新型インフルエンザ等感染症」は、やがて通常のインフルエンザ(seasonal influenza)となった際には、厚生労働大臣が速やかにその旨を公表することとされています。

 

(4)令和3年改正

COVID-19蔓延の長期化を受けて、規制の一部が強化されました。

①新型コロナウィルス感染症の法的位置付けの変更

これまでCOVID-19は、感染症法上「指定感染症」として政令による指定をしていましたが、期限の制限なく行うことを目的として、「新型インフルエンザ等感染症」に「新型コロナウィルス感染症」および「再興型コロナウィルス感染症」を追加しました。

②国・地方自治体間の情報連携の強化

③宿泊療養等の対策の実効性確保

宿泊療養、自宅療養の基準を定め、都道府県知事等による食事や日用品の提供や、宿泊施設確保の努力義務等を規定しました。また、入院勧告や措置に対し、正当な理由なく応じなかった場合には50万円以下の過料が、積極的疫学調査に対し、正当な理由なく応じなかった場合には30万円以下の過料が課せられることになりました。

 

表:感染症法の分類

(令和3年8月現在)

おわりに

医療の発展や時代の流れと共に、感染症対策のあり方は常に変化を求められています。感染を抑えるという国民の健康福祉の最大化を図る一方で、法律という強制力をもって人の権利を制限する以上、その行使は最小限であることが求められます。COVID-19の発生は、私達にその両立の重要性と困難さを突きつけました。私達は、今後もこの問題に対応していかなければなりません。その際、この経験が活かされることを願います。

 

参考文献

厚生労働省健康局結核感染症課監修『詳解 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律・四訂版』(中央法規、2016年)。

新型インフルエンザ等対策研究会編「逐条解説 新型インフルエンザ等対策特別措置法」

(中央法規、2013年)。

 

 

●プロフィール
竹内千佳
行政書士。成城大学非常勤講師。スピカ総合法務事務所・所長。医療法人の許認可業務及び非営利法人の許認可業務を専門としている。実務の傍ら、現在は筑波大学大学博士課程に在籍し、医療法の研究を行う。

 

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