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へるすけあこらむヘルスケアコラム

【感染症】感染症と人類の闘いの歴史

2022.10.15

はじめに

2019年末に出現したCOVID-19は、瞬く間に世界へと広がり、多くの死者を出しました。また、2022年5月ごろから、中央アフリカから西アフリカにかけてのサル痘流行国への渡航歴が無い感染例が、欧米を中心に報告されています。日本においても、欧州への渡航歴のある男性が、7月25日に国内初のサル痘感染者として報告されました。次から次へと出現する感染症。私たちはいつから微生物に苦しめられ、いつまで闘いが続くのでしょうか。感染症に関する報道ばかりで不安が募る毎日から脱するためにも、今回は感染症と人類との歴史を振り返り、これから私たちがなすべきことを考えてみましょう。

 

感染症は悪魔や神の怒りで起こる?

地球上に生命体が誕生したのは約35億年前のことで、その生命体は細胞1つから成る単細胞生物でした。その単細胞生物は長い年月をかけて多くの生命体へと進化し、約500万年前には人類をも生み出しました。この進化の一部に、微生物の感染による共存や遺伝子の交配などが関係しているのではないかと考えられています。いずれにしても、人類誕生前から微生物は地球上に存在して動植物に感染症を引き起こしており、人類の歴史は感染症との闘いの歴史であると言っても過言ではないでしょう。

紀元前3000年ごろに栄えたエジプト文明期のレリーフには、ポリオウイルスに罹患したと考えられる人物が描かれています。当時の人々は感染症への理解が低く、一方で悪魔や神の存在を信じていたことから、感染症の原因は悪魔や神による罰や試練だと考えていました。紀元前800年ごろから栄えた古代ギリシア時代に入ると、感染症が伝染する様子を注意深く観察するようになり、「感染症は汚れた空気(瘴気・しょうき)によって一定地域に流行する」としたミアズマ(瘴気)説が提唱され、医学の父と呼ばれるヒポクラテスもこの立場をとっています。この考えは中世まで続いていたようですが、ヨーロッパでペストが流行し、アメリカ大陸発見とともに梅毒がヨーロッパから流入するなどして、感染者との接触が原因となることが徐々に明らかとなり、ルネサンス期にコンタギオン(接触感染)説が提唱されました。しかし、この時点でもまだ、人類は微生物の存在すら知り得ていません。

 

微生物の発見と感染症との闘い

人類が微生物を発見したのは1670年代に入ってからのことです。比較的解像度の高い顕微鏡が発明されたことで、人類はようやく微生物の存在を知りました。この微生物(細菌)が感染症の原因となることが証明されたのは、微生物の発見から実に200年以上後のことです。この時点でもまだウイルスは発見されておらず、1892年になって人類はようやく敵の姿を知ったのです。

古代から感染症に苦しめられてきた人類は、その原因が微生物であることを知る前からさまざまな対策を講じてきました。1798年に確立された種痘法は、人類が唯一撲滅に成功した天然痘の予防法です。また、1867年には現代に通じる消毒法が考案されています。細菌が感染症の原因となることが明らかとなった1876年以降、感染症対策は急激に進み、1881年には種痘法を他の感染症に応用したワクチンが開発され、1890年には血清療法も開発されました。それでもなお感染症は人類の死因の上位を占めていましたが、1929年にペニシリン(抗生物質)が発見されたことで、多くの感染症が死の病から治療可能な病へと変わりました。

 

表:感染症の歴史

 

新興感染症と再興感染症

感染症の原因が明らかとなって約150年、この間に人類は科学や医学を駆使することで多くの感染症の脅威を克服し始めています。しかし一方で、世界人口が爆発的に増加し、未開の地の開拓や狩猟などの食料確保、さらには流通の発達によるグローバル化によって、新たな感染症の脅威や、国境を跨いだ感染症の脅威に曝されるようになりました。また、多くの感染症に著効を示す抗生物質ですが、使用頻度が高まることで病原体が徐々に慣れてしまい、薬剤耐性菌を生み出す問題が新たに生じています。

WHO(世界保健機構)は1990年に、「1970年以降に新しく認識された感染症の中で、局地的あるいは国際的に公衆衛生上の問題となる感染症」を新興感染症と定義しました。また、「かつて存在した感染症で公衆衛生上ほとんど問題とならないようになっていたが、近年再び増加してきたもの、あるいは将来的に再び問題となる可能性がある感染症」を再興感染症として定義しています。1995年にはアメリカ疾病管理予防センター(CDC)がEmerging Infectious Diseasesを刊行し、第1巻第1号の冒頭に、1970年以降(最初に見つかったのは1973年のロタウイルス)に新しく発見された感染症とその原因病原体の一覧が示されています。

 

おわりに

科学技術の進歩によって悪魔や神といった偶像崇拝から脱却を試みている人類ですが、感染症との闘いはまだ始まったばかりで、増え続ける病原体や感染症には未知な部分が多々あります。科学者は不明な事は「分からない」と明言しますが、感染症対策を実行する行政は何らかの基準やルールを設けなければなりません。この2年間、COVID-19対策において有識者や現場と行政とが異なる見解を述べる姿を何度となく目にし、不安をあおる報道によって心を痛めた方も多かったのではないでしょうか。科学者は不明な事を明らかとし、行政はその明らかとなった事実を基にルールを変えていく、つまりは科学的根拠(エビデンス)と法律・行政とが折り合いを付けることが、現代人類にとって感染症対策を行う上で一番の課題といえるでしょう。

 

 

●プロフィール

内藤博敬

静岡県立農林環境専門職大学 生産環境経営学部 准教授

日本医療・環境オゾン学会 副会長

日本機能水学会 理事

専門は衛生学、病原微生物学、免疫学、生化学。

ウイルスや細菌の感染予防対策法とその効果について、幅広く研究を行っている。

 

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