家族の健康管理から医療資格者との橋渡し役まで

×

ヘルスケアプランナー検定の 練習問題に挑戦!!

練習問題のレベルを選択

ホームヘルスケアプランナー

ヘルスケアプランナー

へるすけあこらむヘルスケアコラム

季節外れ?のインフルエンザ  ~鳥を宿主とするウイルスがヒトを襲う~

2023.07.28

はじめに

2023年1月、アメリカでインフルエンザが猛威を振るっているというニュースが報じられました。COVID-19の台頭で、この数年間は日本でも大きな流行が見られなかったインフルエンザですが、2023年初めには2020年初めと同程度の小さな流行が見られています。春先からゴールデンウィークに向かってその流行は収束してきていましたが、6月に入って患者数が増加しており、今秋以降の感染増加がCOVID-19とともに懸念されています。そこで今回は、今後国内での大規模流行が懸念されるインフルエンザについて考えてみましょう。

 

日本人とインフルエンザ

インフルエンザは紀元前から存在していたと考えられており、16世紀中期にイギリスで流行した際に、冬に流行して春先には収束するのは星の運行や寒気の影響であるとされ、ラテン語で星の影響を意味する「Influentiacoeli」からその名が付けられました。インフルエンザはウイルスによって引き起こされることが科学的に立証されたのは1900年代になってからなので、正確なインフルエンザ流行の記録は120年ほどしかありません。日本では明治維新後に多くの記録が残されるようになり、明治6年の稲葉風邪や明治23年の旧アジア風邪がインフルエンザウイルスに起因する流行と考えられていますが、確実ではありません。日本ではこの頃からインフルエンザを「流行性感冒」と呼んでおり、「インフルエンザ」が公式用語になったのは1951年のことです。約70年で、誰もが知る「インフルエンザ」となったのは、それだけ身近な感染症といえるでしょう。

 

インフルエンザウイルスに合わせて、ワクチンもシーズンごとに作られる

ヒトに感染するインフルエンザは、いわゆる季節型と呼ばれるA型、ヒトで感染環が成立しているB型、子供の時に罹患して終生免疫を獲得しているC型に大別されます。一般的にインフルエンザと言う場合は、A型およびB型を指します。また、ウイルスが発見される以前、患者から分離された細菌が原因とされてインフルエンザ菌と命名されていますが、インフルエンザの病原体は細菌ではなくウイルスです。オルソミクソウイルス科に属すインフルエンザウイルスは、変異を起こしやすいとされるRNAウイルスです。もともとは水鳥や渡り鳥を終宿主とするウイルスで、彼らとは共存関係にあると考えられています。ウイルスは遺伝子とそれを保護するタンパク質から構成されていますが、インフルエンザウイルスはこれらを包む膜(脂質外被膜:エンベロープ)を持っています。ウイルスは感染する細胞と結合するために、スパイクと呼ばれるタンパク質が外側に突き出ていますが、インフルエンザウイルスのスパイクにはヘマグルチニン(HA:H)とノイラミニターゼ(NA:N)の2種類があります。インフルエンザ感染者の飛沫を感染していないヒトが吸い込むと、気道粘膜の細胞に感染します。これまでに、HAは18種類、NAは11種類確認されており、198種類の組み合わせが考えられます。

 

 

図1:インフルエンザウイルス

しかし、ヒトで世界的流行(パンデミック)が確認されているのは、H1N1、H2N2、H3N2の3種類しかありません。スペイン風邪:H1N1(1918年)、アジア風邪:H2N2(1957年)、香港風邪:H3N2(1968年)、ソ連風邪:H1N1(1977年)の4つのパンデミックは有名で、それぞれ多大な犠牲者がでています。また、近年では2009pdn(新型インフルエンザ):H1N1(2009年)があります。

 

 

図2:これまでのインフルエンザの流行

 

インフルエンザウイルスは私たちの細胞上の糖鎖受容体に結合するのですが※、鳥とヒトではこの受容体の構造が異なるので、鳥の持つウイルスがヒトに直接感染することはまれです。新型のインフルエンザが発生する機序としては、ブタなどの家畜の体内で鳥インフルエンザとヒトインフルエンザが交配し、これがたまたまヒトに感染しやすい場合に発生すると考えられています。発生した新型インフルエンザウイルスは少しずつ変異するので、その動向を見ながら冬期の流行に備えて、毎年適合したワクチンを製造しているのです。

 

※ウイルスは標的細胞の決まった場所に結合して感染します。インフルエンザウイルスは、呼吸器細胞膜上の糖鎖受容体に結合して感染することがわかっています。

 

高病原性鳥インフルエンザを恐れる理由

2022年9月29日、野鳥(ハヤブサ)の死因が高病原性鳥インフルエンザであることが確認され、野鳥サーベイランスの対応レベルが1(未発生)から2(国内単一箇所での発生)へと引き上げられました。10月7日にはレベル3(国内複数個所で発生)に引き上げられ、2023年5月にようやく収束しました。その間、飼養鳥や家禽(かきん)での感染も多数報告され、物価の優等生と称される鶏卵の急激な値上げを引き起こしました。

鳥インフルエンザは、その名の通り通常はトリからトリにしか感染しませんが、まれにトリから野生動物、家畜やヒトへの感染が報告されています。トリから哺乳類に感染してヒトへの感染が容易に起こるタイプに変異すると新型インフルエンザとなり、過去に感染経験が無いためヒトの間で爆発的に流行する恐れがあります。また、1997年に香港の生きた鳥を売買していた市場でH5N1がトリから直接ヒトへと伝播し、18人が感染して6人が亡くなっています。野鳥おも死に至らしめるほどの病原性を有するH5N1およびH7N9の高病原性鳥インフルエンザが新型インフルエンザに変異しないよう、野鳥との濃厚接触や不用意に死んだ鳥に触れないなどの注意が大切です。H5N1およびH7N9の組み合わせ(亜型)の高病原性鳥インフルエンザは感染症法で2類に、これ以外の亜型は4類に分類されています。

 

おわりに

感染症法でCOVID-19の五類移行が行われる直前の5月5日、WHO(世界保健機構)は国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態の宣言を終了しました。これにより、今後は海外からの渡航客が増え、われわれもこれまで以上に外出する機会が増えることから、海外の感染症動向にも目を向ける必要があります。インフルエンザウイルスは湿度に弱いため、冬季に気温が下がって空気が乾燥すると流行しやすくなります。日頃から免疫を維持することも大切ですし、早めにワクチンを打って感染拡大や重症化を予防しましょう。

 

 

●プロフィール

内藤博敬

静岡県立農林環境専門職大学 生産環境経営学部 准教授

日本医療・環境オゾン学会 副会長

日本機能水学会 理事

専門は衛生学、病原微生物学、免疫学、生化学。

ウイルスや細菌の感染予防対策法とその効果について、幅広く研究を行っている。
※本コラム図表監修:筆者

 

戻る