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へるすけあこらむヘルスケアコラム

医療機関側から見たコロナと感染症法

2021.11.24

はじめに

1都3県に出されていた緊急事態宣言は10月に解除されました。街は日常生活を取り戻しつつありますが、その一方で第6波の懸念も拭いきれません。

新型コロナウイルス感染者が急増し、入院先が決まらず自宅療養中に死亡するケースが出るなど、医療体制の逼迫が深刻な状況でした。東京都では、入院患者数が4,000人を超し、病床使用率は7割に上っていました(2021年8月23日現在)。そのような中、国と東京都は、改正感染症法に基づき、都内の医療機関に対して、患者の受け入れや病床確保、宿泊療養施設への人材派遣等の「要請」を行いました。これまで、同法に基づく要請は、大阪府、奈良県、静岡県、茨城県、札幌市が病床確保を行った例がありましたが、国が要請を行うのは初めてです。

今年2月に施行された改正感染症法は、正当な理由なく「要請」に従わない場合、「勧告」を行うことができ、さらにそれにも従わない場合には病院名の「公表」ができると定めています(図1)。

改正前感染症法では、協力の「要請」までしかできませんでした。あくまで任意のお願いだったものが、医療機関名の「公表」という事実上の制裁を課すことで、協力に従わせる強制力を持つことになりました。

 

 

感染症法が定める「正当な理由」

それでは、新型コロナ感染者の受け入れを拒んだ場合、最終的に医療機関名が「公表」されてしまうのでしょうか。同法は、「正当な理由」(図2)がある場合には、協力要請に従わないことを認めています。厚生労働省が提示するガイドラインには、「正当な理由」の例示として、下記のケース(※1)が挙げられています。①医師・看護師や必要な設備・物資が不足し、かつ、都道府県側でも必要な人材派遣や迅速な施設整備・物資の供給を行うことができない場合

②既に受け入れている新型コロナウイルス感染症の回復患者やそれ以外の患者の転院が必要となるが、転院先が確保できない場合

③地域における救命救急医療や他の一般診療の提供に支障が生じ得る場合

④緊急性を要する研究の実施等に支障が生じる恐れがある場合

※1;(厚生労働省『「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の改正について」に関するQ&Aについて』一部内容抜粋の上、著者作成)

 

例えば、現在受診中の患者の対応で手一杯で、これ以上患者を受け入れることが難しい場合には、「要請」に従わなくても「正当な理由」があるとされ、「勧告」「公表」を受けることはありません。

 

手続きの透明性の確保

とはいえ、「正当な理由」に該当するか否かについては、法律に明文の規定があるわけではなく、行政による恣意(しい)的な判断がされないかといった懸念が残ります。そこで、厚生労働省はガイドラインの中で、「勧告」「公表」に当たっての解釈指針を示しています。

当該ガイドラインによると、「勧告」「公表」に当たり、当該協力要請に応じないことによる患者の生命・健康等への影響、当該協力要請に代えて実施し得る他の手段の有無等を総合的に考慮して判断するとしています。また、各医療機関の個別の事情を斟酌して、慎重に行うとされています。さらに、これらの判断に当たっては、都道府県医療審議会等の会議体による事前(緊急でやむを得ない場合には事後)に、意見聴取を行うことを求めています。

一例として、病床確保要請を受けている医療機関が、新たな病床確保に必要な医療従事者の確保や必要な設備等の整備が十分になされているにもかかわらず、当該要請に応じない場合に、そのことによって地域全体として必要な病床を確保できないなど、地域における患者の生命・健康等に影響が及ぶと考えられる場合に、「勧告」をし、さらに当該「勧告」に意図的に応じない場合には「公表」することを挙げています。

この例示からすると、①「病床確保に十分な資源があるのに従わなかったこと」だけでは足りず、②「①によって、『当該地域の患者の生命・健康等に影響が及ぶことが必要』」と考えられます。

 

単に病床確保ができるのに従わなかったことだけではなく、それによって発生する影響まで考慮することで、慎重な判断を行うことを要請しています。また、第三者機関である審議会の意見を事前に聴取することによって、恣意的な判断の抑制が図られているといえます。

 

おわりに

感染症法は、今年2月に施行されたコロナ関連改正法の一つです。同法は、医療機関側および患者側に対する権利侵害の恐れから、多くの議論を呼んだことは記憶に新しいところだと思います。改正法施行後、実際に運用がされた中で、今回は医療機関側の視点に立って、その影響を考えてみました。

国及び東京都が行った「要請」は、次の「勧告」「公表」を想定した第一歩でしょう。こうした医療機関の負担を増加させる本要請には、批判の声も出ています。一方で、国は新型コロナウイルス対応の病床を確保した医療機関に対し、1床当たり最大1950万円の補助を行っています。しかし、確保した病床が利用されず、冒頭に述べたような入院先がなく死亡する事態が生じています。厚生労働省は、東京都で病床数と病床使用率の乖離が大きいとして、病床の実態調査を開始することを決めました。

必要な医療を受診できるよう病床確保を行うことは、必要な対策だと思います。そのために、改正感染症法が定める「要請」「勧告」「公表」といった措置を適正な手続きの下で採ることも、必要になる場合があるでしょう。とはいえ、数だけに囚われてその実態が救命につながっていないならば、採った措置は無意味になってしまいます。日々治療に当たっている医療関係者にとっても、患者である国民にとっても、意味のある法律の運用を行ってほしいと願います。

 

●プロフィール

竹内千佳

行政書士。成城大学非常勤講師。スピカ総合法務事務所・所長。医療法人の許認可業務及び非営利法人の許認可業務を専門としている。実務の傍ら、現在は筑波大学大学博士課程に在籍し、医療法の研究を行う。

 

 

 

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