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へるすけあこらむヘルスケアコラム

【日本人の健康状態】日本人にとってのサステナブルなタンパク質食材を考える

2023.04.01

食料自給率100%への秘策!?

2022年11月、国連は世界人口が80億人を突破したと発表した。70億人からわずか11年で10億人の増、このままのペースで人間が増えると、環境、資源、食料など「地球は大丈夫なのか?」と心配になってくる。ちょうど同時期に「世界で最初に飢えるのは日本」(講談社+α新書)という本が出版された。本書によると、コロナ禍や戦争の影響で小麦、大豆等の主要食糧の生産国による抱え込みが起きている、このままエスカレートすると日本は小麦も大豆も買えなくなる可能性があるとのこと。外交政策を優先するあまり、国内の第1次産業である農業、漁業をないがしろにしたツケが回ってくるというのだ。

事実、カロリーベースの食料自給率38%(2021年度、農水省発表)は、先進国として最低レベル。しかし、万が一外交が絶たれた場合、政府にはカロリーベースの自給率を100%にする秘策があるという。それは国内のゴルフ場や学校の校庭でサツマイモを栽培するのだそうだ。エネルギー、ビタミン、食物繊維が豊富なサツマイモは栄養的に積極的に取りたい食品ではあるが、管理栄養士としては、タンパク質源は何で補うのだろうかが気になる。ここでは日本人が生き残るためのサステナブルな食卓のタンパク質源を考えてみたい。

世界人口は増えているが、日本の人口は減少傾向だ。ところが、ニホンジカ、イノシシについては、1995年ごろから増加著しく、農作物への被害が年間約200億円と深刻化している。このため、政府は、シカとイノシシの生息数半減を目指す「集中捕獲キャンペーン」を実施し、2016年に50万頭だった年間捕獲目標を2022年では143万頭にまで増やしている。駆除した個体はどうなっているかというと、穴を掘って埋めているケースが多いという。千葉県の房総半島では、人口よりイノシシの頭数の方が多くなってしまい、埋める場所に苦慮している状況と聞いた。

ジビエとして活用しようとの動きもある。「ジビエ」とはフランス語で狩猟により捕獲された野生鳥獣の食肉のこと。シカ肉バーガーや牡丹鍋で街おこしといういわゆるジビエビジネスが始動しており、政府の資金支援も相まって盛り上がってきている。また、民間人による素人ジビエ料理が人気となり、厚生労働省より、狩猟から消費に至るまでの安全な食肉処理方法を指南する「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」が発行されるまでとなっている。

 

ジビエから見える“世界”

さて、日本人にとってのサステナブルなタンパク質源として、四方を海に囲まれた島国の特権を活かした海洋資源を忘れてはならない。昨今、従来の漁場での漁獲不振の状態が続いている。それでも世界で6番目に広い海を持っているのだ。地球温暖化の影響で魚のすみかが変わっただけで、海域内のどこかにいることを期待したい。一方で魚自体の数が減っているとの指摘もある。原因はクジラだ。

世界中の鯨類が捕食する海洋生物の量は、世界の漁業生産量の3~5倍であり、日本捕鯨協会は、日本近海において鯨類が、カタクチイワシ、サンマ、スケソウダラなど、漁業の重要魚種を大量に捕食していることを胃内容物調査で明らかにしている。実際に、沿岸漁業者からはクジラによる漁業被害に対する苦情が出ているとのこと。

1982年に国際捕鯨委員会(IWC)が商業捕鯨の禁止を発表して以来、クジラは保護されている。日本はIWCが決めた調査捕鯨として、資源が豊富なミンククジラなどを年間数百頭捕獲していた。しかし、反捕鯨派から実質的な商業捕鯨だと非難され、2018年にIWCを脱退し、日本領海での商業捕鯨を再開させた。

実は私は2018年のIWCの会議の場にいた。オブザーバーとして参加する機会を得たのだ。会場付近に集結した反捕鯨派の放つ言葉を生で見聞きした。

 

「クジラは頭が良いから殺してはかわいそう」

(頭の悪い種は殺されて当然ですか?)

「クジラは大きくて神様のようだから敬うべき存在」

(小さくて醜い見た目の生き物には生きる価値はありませんか?)

「鯨は食べるものではなく、ウォッチするもの」

(ガソリンを使って船を出し、ホエールウォッチングに興じることはサステナブルな観光ですか?)

 

( )内は私の心の「?」です!

そもそもクジラが激減した理由は鯨油を巡る欧米諸国の乱獲が原因とのこと。鯨油の代替として廉価な石油が発見され、クジラに商業価値を見出さなくなった国の人々が、今度は非科学的な理由をつけて反捕鯨を掲げる様子を目の当たりにした。

日本鯨類研究所は、30年にわたる調査捕鯨の結果、89種類あるクジラのうち、シロナガスクジラのように増えていない種もあるがミンククジラのように増えている種もある。オキアミだけを捕食している種もあるが、鯨類が大量の魚を捕食していることは事実であり、クジラだけを保護することは、海洋資源の不均衡を招くと主張している。

シカ、イノシシ、クジラ、実際にジビエとして食してみると実においしい。固くて独特の臭みがあるように思われがちだが、いやいやジューシーで芳醇。昔と違って肉の処理方法が格段と進化しているそうだ。栄養的には、タンパク質、鉄分が豊富で低脂肪、クジラについてはバレニンという疲労回復効果の高い成分や、動脈硬化の予防に役立つEPA、DHAが豊富であり、現代人に不足しがちな栄養素の宝庫といっても過言ではない。

というわけで、機会があったらジビエを楽しみながら、そこから見える“世界”に視野を広げてみてはいかがだろう。ちなみにクジラは栄養士のバイブルである日本食品栄養成分表にも掲載されている。馬と鹿の間に。意味は深掘りしないでいただきたい。あいうえお順なので。

【参考サイト】

・全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定及び生息分布調査の結果について(令和2年度):環境省

https://www.env.go.jp/press/109239.html

 

捕鯨をめぐる情勢(令和5年1月):環境省

index-55.pdf (maff.go.jp)

 

 


●プロフィール
内野 美恵

博士(学術)、管理栄養士

東京家政大学ヒューマンライフ支援センター教授

農林水産省みんなの食育ネットワーク幹事

東京都食育推進協議会委員

日本パラリンピック委員会医科学情報サポートスタッフ

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