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へるすけあこらむヘルスケアコラム

諸外国の医療制度① ~国民皆保険とフリーアクセス~

2022.02.01

はじめに

私たちは体調を崩したときに、すぐに最寄りの医療機関を受診して、調剤薬局で治療薬をもらうことができます。いつでも診てもらえるという精神的な安心感に加えて、患者の経済的負担も高くありません。ご存じの通り、こうした医療制度は、世界共通のことではないのです。同じ医療水準であっても、その技術がどのように提供されるかは、国家の制度によって大きく異なります。本コラムでは、2回に分けて、世界の医療制度をご紹介します。

 

公的医療保障の方式

まずは、国家が提供する公的医療保障について見ていきましょう。キーワードは、国民皆保険とフリーアクセスという2つの言葉です。

公的保険については、日本のように国民皆保険を基本とする国と、アメリカのように民間保険を中心とする国に分かれます。国民皆保険を基本とする国の中でも、イギリスやカナダのように税方式を採る国と、ドイツやフランスのように社会保険方式を採る国があります。これは、財源を税から賄うのか、保険料から賄うのかの違いです。日本は、社会保険方式を採用しており、利用者である国民がいずれかの公的医療保険に必ず加入する制度になっています。日本は社会保険方式を採りつつも、その4割程度は公費で賄われているのが特徴です。

また、公的保険の利用の仕方、いわゆるフリーアクセスかどうかにも違いがあります。日本はフリーアクセス制を採っているため、全国どこでも公的保険を利用した医療を受けることができます(※1)。税方式を採用しているイギリスでは、税を主な財源としているため、基本的に無料で受診することができますが、フリーアクセスは大きく制限されています。

 

■各国の公的保険制度

※1;医療保険制度改革法により、大病院を紹介状なしで受診する場合には、特別料金がかかることになりました。特別料金は、初診5,000円以上(歯科3,000円以上)、再診2,500円以上(歯科1,500円以上)で、病院が決めた額となります。

※2;公的医療保険は、高齢者を対象とするメディケアと、低所得者を対象とするメディケイドのみ

※3;加入している民間保険ごとに異なります。

 

ドイツの医療制度

ドイツは、世界で最も早く近代的な公的医療保障制度を導入した国で、その歴史は1883年にさかのぼります。国民皆保険を採用していますが、一定額を超える富裕層(国民のおよそ1割程度)は対象外とされます。公的保険の対象外とされた人は、民間の保険へ加入します。財源は、労使拠出とされ、原則として公費の投入をしない制度を採っていましたが、財源の赤字化により、2004年から税の投入が行われています。

ドイツでは、かかりつけ医を法的に義務付けていませんが、国民の9割がまず家庭医(ハウスアルツ)を受診します。家庭医が必要と判断すれば、専門医、病院、大学病院を紹介します。家庭医は、レントゲン等の医療機器を備えていないことが多く、また、備えていても家庭医がレントゲン等を行った場合の保険償還はされないので、紹介状を持って専門医等の診断を受けることになります。家庭医の紹介状を持たずに病院等を受診することも可能ですが、費用が高くなります。また、病院は、主に入院患者の治療を目的としており、退院すると家庭医が経過観察を行います。ICUを持つ病院や大学病院には、集中治療専門医がいます。日本よりも、医療機関ごとの役割がはっきりと分かれているのが特徴的です。

そのほか、日本と異なる特徴として、ドイツでは代替医療が広く活用されています。通常医療に代わり、もしくは通常医療と併せて、マッサージや温泉浴等も治療の一部として認められています。また、ドイツでは現代医療と自然療法を併せた統合医療を推進しており、ドイツの医学部ではハーブ療法の講義が必修科目となっているようです。

 

ドイツとコロナ感染症対策

ドイツは、これまで一定の感染症対策を行い、欧州の中では、比較的感染者数が低く保たれていました。感染症対策として、2021年の4月感染予防法改正が挙げられます。同法では、全州一律に適用される統一基準が設けられました。この基準は、過去7日間の新規感染者が3日連続で人口10万人当たり100人を上回った地域に対し、夜間の外出制限等を義務付けるものです。連邦制を採るドイツでは、州の裁量権限が強く、感染対策の在り方を巡り各州の足並みがそろわないこともありましたが、この改正により、基準が統一されるようになりました。

こうした厳しい法規制と併せ、従来から続く明確な役割分担による医療制度が、ドイツの感染症対策を支えていました。日本は、ドイツよりも人口当たりの病床数、病院数、CT等の医療機器台数が多いといわれていますが、ICUの病床数は人口10万人当たりドイツが29.2であるのに対し、日本は13.5と大きく遅れています。また、人口1000人当たりの医師数もドイツが4.5人であるのに対し、日本は2.5人とおよそ半分です。(※4)2022年1月現在、日本も含め、全世界でオミクロン株が急拡大しています。ドイツも例外ではなく、昨年末から新規感染者が増え始め、1月12日には8万人を超える過去最多を更新してしまいました。充実したICUを持つドイツでも、病床が9割以上埋まり、病床ひっ迫の恐れが出てきていると報道されています。

※4 厚生労働省「ICU等の病床に関する国際比較について」、OECD Health Statistics参照。

 

●プロフィール

竹内千佳

行政書士。成城大学非常勤講師。スピカ総合法務事務所・所長。医療法人の許認可業務及び非営利法人の許認可業務を専門としている。実務の傍ら、現在は筑波大学大学博士課程に在籍し、医療法の研究を行う。

 

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