へるすけあこらむヘルスケアコラム
【日本人の健康状態】オゾン層破壊と健康
2022.02.10はじめに
感染症対策でもその酸化力が注目されているオゾンですが、光化学スモッグの指標でもあり、かつては間違った利用や管理から事故を起こすことがあったため、良い印象を持てない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私たちが健康に暮らすためには、オゾンは無くてはならない物質なのです。オゾンは、コピー機やプリンターなどの近くでも発生しています。また、オゾンは浄水処理分野で活用されるだけでなく、カット野菜の洗浄、生鮮食品の保存、救急車やホテルの消臭除菌といった衛生維持など、身近な場所でも幅広く活用されています。それほど身近なオゾンですが、私たちにとって大切なのは、むしろ間遠(まどお)い成層圏のオゾン層です。今回はこのオゾン層と健康との関係を考えてみましょう。
オゾン層は太陽から降り注ぐ紫外線から地上を守っている
オゾン層は地表から20~30 km上空に形成されているので、私たちが日常生活でオゾン層を意識することはありません。しかし、オゾン層は太陽光に含まれる強いエネルギー波を吸収しており、もしもオゾン層が存在しなければ、地表の生物は焼け焦げてしまいます。この強いエネルギー波が紫外線です。光はエネルギーの波であり、私たちが目で見ている色(約400~800)も、可視光と呼ばれるエネルギーの波です。可視光より短く強い波長を持った光が紫外線で、その波長によってUV-A(320~400 nm)、UV-B(280~320 nm)、UV-C(280 nm未満)の3つに分けられています。
オゾン層はどうやってできているのか
オゾンは、酸素原子が3つ結合したもので、極めて酸化力の強い気体です。落雷で生じる臭いの有るガスとして発見されました。通常、大気中の酸素は原子2つが結合してできていますが、強いエネルギーによって酸素原子がバラバラとなり、3つが結合するとオゾンになります。太陽から降り注ぐ強いエネルギーである紫外線が、大気中の酸素に吸収されることでオゾンが発生するのです。しかし、オゾンは本来2つで結合すべき酸素原子が3つ結合してしまった不安定な物質なので、容易に分解してしまいます。成層圏に形成されるオゾン層は、オゾンの発生と分解のバランスが取れて層を築き、これによって有害な紫外線が地上に降り注ぐことを防いでいるのです。
紫外線の一部は地表に届いている
日本では春先から夏にかけて日差しが強くなり、気象庁からも紫外線指数が示されます。オゾン層が吸収しているのは、340 nm以下の紫外線なので、UV-AとUV-Bの一部は地表に届いています。これらの紫外線は、私たちの皮膚でビタミンD合成の手助けをしてくれていますが、浴び過ぎると日焼けします。紫外線は波長が短くなるほどエネルギーが強くなるので、UV-Cは生物にとって極めて危険な紫外線です。しかし、UV-Cはオゾンだけでなく酸素にも吸収されるので、地表に届くことはありません。UV-Bは、UV-Cほど強くありませんが、照射された表面、私たちであれば皮膚の表面に素早く強く作用します。このUV-Bは、大気中でオゾンにしか吸収されないため、オゾン層のオゾン量によって地表に届くUV-Bの量が変わります。UV-Aは、他の2つと比べるとエネルギーは低いですが、一年中地表に届いており、私たちが浴びると表皮を突き抜けて真皮層にまで達します。影響速度も緩やかで、ジワジワとダメージが現れます。
紫外線による健康被害
紫外線による健康影響で最も身近なのは、日焼けによるシミ、ソバカスやシワ肌でしょう。紫外線を浴びると、表皮と真皮の境にあるメラノサイトが活性化され、皮膚の細胞を守ろうとメラニンと呼ばれる色素を形成します。日焼けの急性症状として、炎症で赤くなるサンバーンから次第に茶黒くなるサンタンを引き起こしますが、この茶黒い色素がメラニンで、紫外線から皮膚を守るための生体防御といえます。このメラニンは、本来皮膚の新陳代謝により徐々に消失しますが、消失とのバランスが崩れて表皮に沈着すると、慢性症状としてシミやソバカスを形成します。
紫外線の健康影響は、シミやソバカスだけではありません。前述のUV-Bは、細胞内の遺伝子を損傷することも分かっており、皮膚がんを主とした悪性腫瘍の原因にもなります。DNAは、254 nmをピークとして紫外線の影響を受けるため、UV-Bの波長が短いほど、その影響も大きくなります。また、視覚で生きる私たちは、目でも紫外線を受けており、紫外線は視覚にも影響して、目の水晶体が濁る白内障や、黒目に白目が侵入する翼状片の原因となります。オゾン層が1%減少すると、地表に到達するUV-B量は1.5%増加し、皮膚がんの発症を2%、白内障の発症を0.6~0.8%増加させることが分かっています。
図1;紫外線が関係していると考えられている病気
出典:「紫外線環境マニュアル2015」環境省
オゾン層破壊はなぜ起こる
産業革命以降、私たちはさまざまな物質を発見し生産してきました。その中に、冷蔵庫やエアコンの冷媒として、あるいは半導体の洗浄に用いられたフロン類があります。このフロン類が気化して成層圏に達すると、紫外線によって分解されて塩素原子を放出し、これが触媒となってオゾンを分解します。1980年代に南極上空で気温が下がる冬季(南極は南半球なので日本の夏季にあたる)に確認されたオゾンホールですが、近年では北極でも確認されることがあり、フロン類の使用を禁止した現在においても、オゾン層破壊は止まっていません。また、代替フロンはオゾン層こそ破壊しないものの、温暖化効果の高いガスであるため、これらについても現在は使用が禁止されています。
おわりに
私たちが地球上で生きていくためには、オゾン層を維持することが必要不可欠であることが分かっていただけたでしょうか。オゾンは現在、工業、食品、水処理など、さまざまな分野で利用されていますが、地表で作ったオゾンが成層圏のオゾン層になることはありません。すぐに分解してしまうのが、オゾンの利点でもあり欠点でもあるのです。成層圏において人工的にオゾン層を形成させる技術はまだ確立されていません。前述のフロン類の使用は世界的に禁止されていますが、今後も世界人口は増加するので、新たな文明や人間活動によって、オゾン層の破壊に関与する物質を放出するようなことのないよう、今後も注意深く見守っていく必要があります。