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へるすけあこらむヘルスケアコラム

【感染症】感染症対策としての感染症法類型  ~COVID-19が2類相当から3類、4類ではなく5類に移行するわけ~

2023.04.04

はじめに

これまで多くの感染症を経験してきた人類ですが、世界的規模での人口増加やそれに伴う開発、開拓によって、新たな感染症に見舞われる機会が増えています。人類が唯一撲滅した感染症に天然痘(痘瘡)がありますが、これは世界保健機構(WHO)の痘瘡根絶計画による世界規模での感染症対策が奏功したものです。しかし、制圧できていない感染症に加えて新たな感染症が増え続けており、各国での感染症対策強化が求められています。

日本においては、2009年の新型インフルエンザ、2020年のCOVID-19(新型コロナ感染症)パンデミックを経験し、市民レベルでも感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)や検疫といった国レベルでの対応を見聞きする機会が増えました。また、COVID-19パンデミック下においても、RSウイルス感染症、サル痘、マールブルグ病など、さまざまな感染症が話題となり、その度に感染症法類型が取り上げられてきました。今回はこの感染症法類型がいかにして感染症対策を成しているのか、またCOVID-19を例に類型の移行の是非についても考えてみましょう。

 

日本の感染症対策

国レベルでの感染症予防対策の始まりは、感染症患者の完全隔離からと考えられています。現代では感染症法によって感染患者が不当な隔離や差別されることの無いよう規定されており、医療現場では感染の有無にかかわらず血液、体液や排泄物は全て感染の可能性があるものとして対応する「標準予防策」を軸として、「感染経路別予防策」が策定されています。

感染症対策は水際対策、ワクチン接種、流行予防や流行時の直接的な対策にばかりを意識しがちですが、一国であれ国際的であれ、状況把握のための調査(サーベイランス)があってこその対策です。このサーベイランスは、国立感染症研究所、地方自治体の衛生研究所(都道府県)、保健所(市町村)の連携システムが中心となっています。サーベイランスデータは公表されており、報道では地域や年齢などに分けて増減を図示するような記述疫学が多々見受けられますが、これは数字よりもグラフの方が、直感的に受け止めやすいからではないでしょうか。

国政における感染症対策は、厚生労働省を中心とし、健康局の生活衛生課、疫病対策課、結核感染症課および医薬食品局食品安全部の検疫所業務管理室が感染症対策をつかさどっています。また、法律も感染症法1つで対策するのではなく、検疫法、予防接種法、学校保健安全法などによって国レベルでの対策を遂行しています。

感染症法類型と感染症対策

COVID-19パンデミック当初から話題となったことで、感染症法類型による分類は一般的にも知られるようになりました。感染症対策は法律だけで成せるものではありませんが、そもそも法律は時代に合わせて変えるべきものであり、感染症法類型は極めて迅速に予防対策を変更できる法律です。類型の分類とそれぞれの含まれる感染症の特徴を表に示します。

■表:感染症法の類型ごとの特徴

人口増加や開発・開拓の進む現代、新たな感染症の出現スピードも速くなっており、1973年以降に発見された新興感染症は2022年末現在で32種に及び、今後も増え続けることでしょう。1997年までの日本の感染症対策は、1897年(明治30年)に施行された伝染病予防法に準じており、法の変更には煩雑な手続きが必要なため、速やかに適切な対処を取るのが難しいという欠点がありました。そこで、エイズ対策として1989年にエイズ予防法を施行するなどして対策を試みますが、新興感染症が増え続けることを考えると、新法の乱立も進むこととなります。こうした背景から、これまでの感染症に関する法律を廃止して新たな感染症法が施行されました。感染症法では感染症を類型分けしたことで、手続きも対策措置も状況に応じて速やかに変更できるようになりました。

 

おわりに ~COVID-19の移行措置~

2023年5月8日に、COVID-19を新型インフルエンザ等感染症(2類相当)から5類感染症に移行します。集団発生する可能性からすると3類、動物由来を考慮すれば4類への移行でも良さそうに思いますが、各類型に含まれる感染症を見ると、COVID-19は5類が適切だということが分かります。

表には教科書的な表現で特徴を記しましたが、1類は日本での感染報告が無く、予防法や感染した場合の治療法などが確立されていない世界的に極めて危険な感染症です。2類は重症化率や致死率が高い呼吸器感染症とポリオ(急性灰白髄炎)、3類は細菌性食中毒が分類されています。4類、5類には多くの感染症が含まれますが、ウイルス性肝炎のうち食中毒によるA型およびE型肝炎、ダニや蚊などの節足動物が媒介する感染症は4類に分類されます。A型およびE型以外の肝炎や性感染症などの全数把握疾患、おたふく風邪などの定点把握疾患は5類に分類されます。この内容からすると、発生当初にCOVID-19を2類相当といたことは妥当といえます。

3、4、5類感染症は、治療や入院費用は自己負担となりますが、1類および2類感染では、医療保険適用残額を公費で負担することとなっているため感染者の負担はありません。費用負担を考えると、これまでCOVID-19を五類に移行しなかったのも、国としての責務だったのでしょう。一方で、1類感染症は第一種、2類感染症は第二種感染症指定医療機関に都道府県知事が指定した病院でしか受診・入院できません。COVID-19は発生当初から2類相当として対応されており、入院病床数に限りがあるために医療崩壊が叫ばれていました。ようやく5類へと移行措置が行われますが、費用負担を苦に受診せずに重症化したり周囲へ拡散したりする国民が出ないよう、一定期間は検査、ワクチン接種や治療を公費負担とするような措置をお願いしたいものです。

 

●プロフィール

内藤博敬

静岡県立農林環境専門職大学 生産環境経営学部 准教授

日本医療・環境オゾン学会 副会長

日本機能水学会 理事

専門は衛生学、病原微生物学、免疫学、生化学。

ウイルスや細菌の感染予防対策法とその効果について、幅広く研究を行っている。

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