へるすけあこらむヘルスケアコラム
【アレルギー】春の花粉症
2023.02.07花粉症対策、二つの基本
スギ花粉症のある人たちにとっては憂鬱な時期が近づいてきた。内科や耳鼻科や眼科のクリニックには多くの人たちが待ち合いにあふれて、いつもの薬を求めていることだろう。
今年の1月19日、日本気象協会から2023年のスギ花粉飛散量の予想(第3報)が発表された。2023年春の飛散量は、九州~東北で前シーズンより多く、特に四国・近畿・東海・関東甲信で「非常に多い」予想とされている(日本気象協会参考URL)。花粉飛散量を決める要因は、夏の気温と日照時間である。気温が30度を超えて日照時間が長くなると翌年の花粉量は多くなる。
スギ花粉の飛散は2〜4月ごろである。飛び始めの時期を決めるのは冬の寒い気温である。秋に休眠状態となった花が目覚めるのに冬の気温が決定していることによる。
スギ花粉飛散開始前に症状が出る経験をしている人もいると思う。飛散開始日の定義が「1月以降で、観測地点で1㎠当たり1個以上のスギ花粉を、2日以上連続して観測した最初の日」とされていることによる。また,ハンノキは1〜6月にかけて花粉飛散する。スギ花粉症を持つ人の20%がハンノキ花粉にも反応しているといわれている。公園に植えられることもある一般的な樹木であるため、スギやヒノキだけに目を向けていると忘れがちな花粉症の原因となる植物である。
このように春の花粉症は遠くまで飛散する樹木の花粉が多い。草本植物が中心の夏や秋の花粉に比べて広範に飛散するため周囲にスギやヒノキ、ハンノキの樹木が見当たらなくても症状を起こす。
花粉症対策の基本は、まず抗原回避、次に薬物治療である。
抗原回避とは難しく聞こえるかもしれないが、花粉にさらされないために「外出時の対策」と「帰宅時、家での対策」の二つの対策が重要である。
■外出時の対策
鼻までしっかり隠れるマスクを着用し、メガネをかける。メガネは可能ならばフード付きの花粉症用メガネが良い。頭部に花粉が付着しないように帽子を着用する。衣類はツルツルした素材のコートや上着が衣類への花粉付着を防止しやすい。
■帰宅時、家での対策
衣類についた花粉は玄関前で落としてから家に入るようにする。家族全員で徹底する。帰宅後は洗顔、うがいを行う。可能であれば体温に近い温度の生理食塩水(塩分濃度0.9%)で鼻うがいをする。水道水で鼻うがいをすると鼻の粘膜に刺激となるので避ける。また強い圧で行うことや洗浄後10分以内に鼻をかむと中耳炎を起こすことがあるので避ける。
適切な治療法の選択
次に薬物療法の基本は、以下の表の通りである。重症及び最重症の人に対しては抗IgE抗体(オマリズマブ)が2020年より使用可能となった。既存の薬物療法を適切に行っても症状が強い人には良い適応であるが、先ほどの抗原回避と既存の薬物療法を適切に行った場合にはそれほど適応になる患者数は多くないと思われる。
また、適切に治療を行っても重症の鼻閉が取れない場合には鼻中隔弯曲症、鼻ポリープなどを合併している可能性がある、そのような場合には手術治療を行うことが有用である。
表タイトル;重症度に応じた花粉症に対する治療の選択
「鼻アレルギー診療ガイドライン」 ライフ・サイエンスより引用
スギ花粉症はつらいと思うが、しっかりとした対策を取ることで症状の緩和は可能である。
「外出時の対策」と「帰宅時、家での対策」をしっかりと行うようにされたい。花粉が舞う時期もだが、花粉は毎年飛散する量が変動する。
アレルギー性鼻炎に関しては、「去年は効いていた薬が効かなくなる」ことはないし、「夢のように効く薬」や「手術をすることで完治する」もない。地味ではあるが,日々の対策が重要となる。症状が楽だからといって、適切な初期治療を怠るとピーク時にはつらい思いをすることになる。紹介したような適切な対応を続けることで、つらい時期をなんとか切り抜けてほしい。前述したように「手術で完治することはない」が、花粉症と思っていたら実際には「慢性副鼻腔炎(蓄膿症)」や「鼻中隔弯曲症」による鼻詰まりである方は珍しくない。適切な治療を行っても改善が乏しい場合には、内視鏡だけでなくCTも持っている耳鼻咽喉科を受診して相談してみることもひとつかもしれない。
●プロフィール
中上桂吾
戸田笹目耳鼻科 院長
東京女子医科大学足立医療センター 非常勤講師