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感染症の現状と対策(第4回 2024年11月)

2025.02.22

2024年11月9日(土)に、ホームヘルスケアプランナー検定、ヘルスケアプランナー検定取得者を対象にした「オンラインセミナー 感染症の現状と対策」を(主催/一般社団法人ヘルスケアプランナー検定協会)を開催しました。
当日は、講師としてヘルスケアプランナー検定協会の理事で、静岡県立農林環境専門職大学教授の内藤博敬先生をお招きし、「感染症の現状と対策」をテーマに約1時間の講演が行われました。なお、当日は、有資格者や教本の執筆に協力していただいた先生方など35名が参加しました。

 感染症の原因は微生物

現在日本人の死因のトップはがんです。しかし、明治維新後から第2次世界大戦までの間のデータを見てみると、一番多い原因は肺炎でした。1918年に流行したスペイン風邪というインフルエンザで亡くなった方が大変多く、またチフスのような胃腸炎、そして結核で亡くなる方も多くいました。これは日本だけでなく世界を見ても同じ状況で、感染症で亡くなる方が多くいた歴史があります。第2次世界大戦後、抗生物質の発見によって感染症をある程度抑えることができてきましたが、これから50年後ぐらいには、薬剤耐性菌というものがわれわれを襲ってくるのではないかという予測も立てられています。昨今のCOVID-19を含め、今後も感染症の対策についてはいろいろと注意をしていかなければなりません。

そもそも感染症がなぜ起きるのかというと、原因は微生物です。われわれは微生物を小さな生物と広く捉えがちですが、大きく下記のような種類があります。

・細菌
・ウイルス:厳密にいうと細胞コードを持っていないため、生物ではない。遺伝子とタンパク質でできているため、一部の消毒薬が効かない。
・真核生物:染色体を複数持つ生物。原虫や蠕虫(ぜんちゅう)など、単細胞の寄生虫も該当する。細胞内小器官を複数持ち、われわれに近い存在。人間とは異なる構成成分を狙った薬が開発されている。

今回は、なぜこのような微生物が発生したり流行したりするのかということを主軸に、文明の発達と感染症というテーマで話していきたいと思います。

 文明の発達と感染症

感染症の動向を年代別に見ていくと、人口増加や集団生活との関係性が見えてきます。特に1800年代は産業革命と第2次農業革命があり、人口が爆発的に増えたことによって開拓が進みました。未開の地へ踏み込むことで、さまざまな感染症が生まれたのです。いくつか代表的な感染症の例を挙げてみましょう。

(1)ペスト
文明の発達とともに挙げられる感染症として最初に必ず語られるのが、ペストです。この感染症は農作物を貯蔵するようになったことで、それまでわれわれの身近にはいなかった虫や動物がそばに来るようになったことで発生し始めました。例えばネズミが人間の近くへ来るようになったことで、バクテリアやウイルスなどネズミの常在菌が、ノミを介してわれわれに広がっていったと考えられています。ペストは現在消滅したわけではなく、数年前にも中国で発生していますし、東南アジアなどでは水害が起きると発生しています。

(2)アカントアメーバ
アカントアメーバは土壌中の有機物(菌や他の原生動物)を分解する微生物で、目に入ると角膜炎や肉芽腫性脳炎の原因となります。通常は土壌中に存在するのですが、医療の進歩によって生まれたコンタクトレンズをつけることで、レンズと角膜の間にアカントアメーバが入り込み、角膜が傷つき感染症をもたらすようになりました。

(3)Mポックス(サル痘)
現在世界で症例が出ていて、WHOからも注意喚起が出ている感染症です。過去に人類が唯一撲滅させた感染症として痘瘡ウイルスによる天然痘がありますが、人に感染する痘瘡ウイルス以外に、実は、それぞれの動物で感染する天然痘のウイルスがあります。サル痘は本来猿に感染するものですが、人間と猿は遺伝子的に近い部分があるため、人にも感染することが分かりました。症状は天然痘と同じような症状が出ます。天然痘のワクチンである種痘というもので予防することができるため、必要な人はワクチンの予防接種をもう一度するように喚起されています。

上記に挙げたサル痘を調べていくと、男性同性愛者間での流行が非常に多いという報告が出ています。しかしサル痘は、年齢も性別も関係なく感染する感染症です。ではなぜ、男性の同性愛者間での広がりが顕著なのでしょうか。その理由の一つとして、世界規模でのマッチングアプリの開発と利用が、衛生疫学的に注目されています。同性愛者間の交流が世界的に活性化していくことが、感染症を広げる一因になっているのではないか? と考えられているのです。これは、科学機器の発達が感染症に関係しているデータの一つとして考えられています。

以上に、文明の発達と関わりがありそうな3つの感染症を挙げました。もちろんこれ意外にも感染症は、さまざまなものがあります。1990年には、WHOによって、過去からあり近年再び増加してきた感染症を再興感染症、1970年以降に新しく認識された感染症を新興感染症と定義付けられました。

・再興感染症:かつて存在した感染症で公衆衛生上ほとんど問題とならないようになっていたが、近年再び増加してきたもの、あるいは将来的に再び問題となる可能性がある感染症。結核、マラリア、デング熱、狂犬病、黄色ブドウ球菌感染症など。

・新興感染症:かつては知られていなかった、この20年間(1973~)に新しく認識された感染症で、局地的に、あるいは国際的に公衆衛生上の問題となる感染症。エイズ、エボラ出血熱、ラッサ熱など。

新興感染症については、常に対策を考え進めている状況にあります。

食中毒の現状

食中毒は原因をつかもうとしたときに、食べたものがすでになくなっているため、なかなか原因食を追求するのが難しい感染症です。科学的根拠を組み合わせて想定していくわけですが、原因になる菌には以下のものが挙げられます。

・赤痢(赤痢菌/アメーバ赤痢)
・ノロウイルス
・カンピロバクター
・ウェルシュ菌

(1)赤痢
赤痢にはバクテリアである赤痢菌と、原虫であるアメーバ赤痢の2種類あり、いずれも汚染された食品や水が原因となることが多いです。赤痢自体は衛生状態の悪いエリアで発生するもので、日本では昭和初期頃に多く出ていました。しかし昨年の8月には、東京にある東南アジア料理店で発生しています。今回発生した赤痢はバクテリアの赤痢菌によるもので、凍らしても死滅しないため、輸入食材が原因ではないかと考えられています。症状としては、高熱が出て腹部に激痛を伴い、排便時に血液と共に便が流れていきます。志賀毒素という毒素によるもので、これは大腸菌O157や腸管出血性大腸菌にあるベロ毒素と同じ毒素です。一方、アメーバ赤痢は粘血便といわれ、下痢ではあるのですが、粘性のある便です。熱は出ず、腹痛を催してトイレに行っても便が出ない状態が続くことがあり、同じ赤痢でも症状が全く異なります。

(2)ノロウイルス
ノロウイルスは1968年にアメリカのオハイオ州ノーウォークで起きた集団食中毒により発見されたウイルスです。その後、世界各地で見つかり、ノーウォーク様ウイルス、小型球形ウイルス、ヒトカリシウイルスなどの変遷を経て、2002年に現在の属名となりました。通常ウイルスは細胞に寄生していますが、ノロウイルスはウイルス粒子で水中を漂っています(環境中のウイルスの感染性は不明)。滝や川などは、土壌にも接しているため、水圏+地圏の微生物による感染が起こると考えられています。また、ノロウイルスはエンベロープという外側のタンパク膜を持っていないためエタノールのような消毒薬が効きにくく、次亜塩素酸などを用いて消毒していきます。

(3)カンピロバクター
日本における食中毒では非常に患者数が多い菌で、いくつか種類がありますが、カンピロバクター・ジェジュニという菌がカンピロバクター食中毒による原因の95%を占めています。牛、羊、鶏、犬、猫、水鳥など、家畜やペットの腸管から水を介して感染しますが、中でも鶏肉による感染が一番多く、その理由の一つは食文化です。われわれは、卵を生で食べる食文化を持っていますし、特に九州地方では鶏肉のささみなども生で食べることがあります。熱にかければ死滅しますが、きちんと処理をしないと感染するケースがあります。

(4)ウェルシュ菌
春先や夏になると必ず注意喚起されるバクテリアで、集団食中毒を起こす菌として考えられています。ヒトや動物の腸管内、土壌、下水など自然界に広く常在しており、熱によって死滅するカンピロバクターとは異なり、芽胞とよばれる種のような形態をとり、耐熱性(100 ℃で1~6 時間の加熱に耐える)があります。カレーやスープ、肉団子、野菜の煮物などが原因食品として挙げられています。例えば子ども会でキャンプに行き、前日からカレーを仕込んでいると、食材や外気からウェルシュ菌が入ることがあります。出来上がった後、徐々に温度が下がることで、この菌は種の状態から芽を出して、わっと広がっていくわけです。その後温めても菌は死なないため、身体の中に入り、腹痛と下痢を伴う食中毒を引き起こします。

上記が代表的な食中毒の病原菌ですが、大雨による影響や土壌を掘り起こすことで、土壌の中にいる菌・レプトスピラなどが食中毒をもたらすこともあります。また、循環風呂で問題となったレジオネラ菌や、原虫であるクリプトスポリジウムも土壌中にいるものであり、水害による食中毒の広がりが危険視されています。

2024年話題の感染症

2024年によく名前が挙がった感染症としては、手足口病と溶連菌、マイコプラズマ肺炎が挙げられます。手足口病は原因となるウイルスが水の中におり、水遊びなどが増える夏に全国的に流行しました。また、溶連菌は今後春にかけて再び報告が増えていくだろうと予想されています。マイコプラズマ肺炎は4〜5年に一度は流行が予想されていて、2024年がちょうどその年へと当たりました。

・手足口病:口の中や、手足などに水疱を伴う複数の発疹が出る感染症。主な原因は、コクサッキーウイルスやエンテロウイルスなど。子どもを中心に、主に夏に流行する。

・溶連菌:急性咽頭炎や急性扁桃炎、劇症型A群レンサ球菌感染症などを引き起こす。多くの場合、A群β溶血性レンサ球菌によるものを指す。

・マイコプラズマ肺炎:乾いた咳が続く。マイコプラズマはバクテリアの仲間で原核生物だが、原核生物ならば通常持っている細胞壁を持っていないため、通常の風邪薬が効かない。

国や個人の感染症対策

これまでいろいろな感染症を紹介してきましたが、全てを同じように怖がるのではなく、危険度を知り正しく恐れてほしいと思います。日本では、2007年4月に感染症法という法律が施行され、新しい感染症が見つかると追跡調査を進め、1年以内に下記の一類から五類までの感染症に分けられています。

一類:超危険。日本国内で感染事例無(現在)。
二類:危険(ポリオ以外は呼吸器感染症)。結核以外は国内感染事例:少。
三類:危険な細菌性食中毒。日本国内で感染事例:多。O157や赤痢などが挙げられる。
四類:A/E型肝炎・節足動物媒介。ダニや蚊が媒介する感染症。
五類:その他肝炎ウイルス・性感染症。麻疹、風疹などメジャーな感染症。

また、国立感染症研究所の感染症疫学センターのウェブサイトでは、世界的な感染症の発生状況だけでなく日本国内の発生状況をはじめ感染症ごとに具体的な情報を閲覧することができます。ワクチン開発など国としての対策だけでなく、個人として感染症の正しい情報を知り、予防対策をすることが必要であり、ぜひ参考にしてみてほしいと思います。
感染症はきちんと予防すれば感染する可能性は低いですし、何よりわれわれの体は免疫という生命防御システムを持っています。何かを食べればすぐに免疫力が上がるというわけではないので、日頃から三食しっかり食べてきちんと睡眠を取り、排泄をする。そして適度な運動をしてリンパ液を流すことを心掛けてもらうのが、第一の感染症予防です。自分でできる予防をしながら正しい情報を得て、ぜひ正しく恐れてほしいと思います。

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